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書籍名

市民社会の法社会学 市民社会の公共性を支える法的基盤

著者名

佐藤 岩夫

判型など

264ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年4月

ISBN コード

978-4-535-52732-4

出版社

日本評論社

出版社URL

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市民社会の法社会学

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日本では、伝統的に、公共性は国家の独占物とみなされがちであった。しかし、公共性を「社会の共通課題について、より良い社会の構想を持って行われる活動」(本書第1章) と捉えるならば、それは決して国家の独占物ではなく、市民社会においても、さまざまな社会運動や非営利組織、アソシエーションの活動として活発に行われている。公共性を市民社会の活動の側から考えてみること、そしてそのような市民社会の公共的活動にとって法システムが果たしうる役割と課題を明らかにすること、それらを通じて、現代日本における市民社会の公共性を支える法的基盤のあり方を考えることが本書のねらいである。
 
第I部では、公共性を市民社会の活動の側から考える理論的視座を整理したうえで、いくつかの具体的制度に即して、市民社会の公共的活動にとって法が果たしうる役割を考察している。公共訴訟 (市民社会のアドボカシーとして行われる訴訟)、まちづくり条例、修復的司法、司法制度改革などを取り上げた。第I部の考察を通じて浮かび上がったのは、現代の公共性を構成する価値としての「熟議」の重要性である。そして、法システムは、さまざまなかたちで熟議の場を提供し、それを通じて市民の公共的活動を支援する可能性を持つ。
 
第II部では、1990年代後半以降、日本において急速に発展した非営利組織に関する法制度 (非営利法) の展開を扱った。最近20年あまりの非営利法の展開は、大きな方向性としては、市民社会の多様な活動のための制度的基盤を整える意義を持っている。しかしそれは、単純に市民社会の発展を後押しする観点だけに導かれたものではなく、議論はしばしば錯綜し、また、公共性や公益性をめぐる市民社会と国家のあいだの鋭い緊張関係が現れる場面でもあった。この紹介文を書いている現在、政府では新たな公益法人制度改革の議論が進行中であるが、本書の考察は、この動きの理解にとっても重要な示唆を与える。
 
最後に、第III部は、本書の主題と密接に関連する法社会学の基礎理論として、現代社会の法化 (legalization) および市民社会を基盤とする法の生成・変動についての考察を行った。一方で、市民社会の公共的活動を法システムが支援し、他方で、そのような公共的活動の積み重ねの結果として法システム自体も変わっていく、そのような市民社会と法システムのあいだの循環的な相互構築関係を捉える視座が示されている。
 
市民社会をめぐる問題は社会科学の多様な分野の研究関心を刺激し、すでに多くの研究が発表されている。しかし、市民社会と法システムとの関係に焦点を合わせた研究は少ない。本書は、法社会学の視角から、市民社会と法システムの動態的関係を明らかにすることを通じて、日本における市民社会研究の新たな領域を開拓することを目指したものである。広く市民社会に関心を持つ読者に本書を手に取っていただければ幸いである。
 

(紹介文執筆者: 相談支援研究開発センター 特任教授 佐藤 岩夫 / 2023)

本の目次


               
第I部 市民社会の公共性と法
               
 
第1章 市民社会の公共性と法
第2章 公共圏の形成をめぐる社会運動と訴訟
第3章 市民活動による社会形成と司法システム――応答的司法の展望
第3章 [補論]司法制度改革後の展開と課題
第4章 まちづくり条例と地域の公共性
第5章 〈心理学化される現実〉と社会の媒介的審級の回復
     ――修復的司法を素材に
第6章 社会的関係形成と借家法――A・メルッチに示唆を受けて
 
               
第II部 非営利・アソシエーションの法
               
 
第7章 市民セクターの発展と民間非営利法制
第8章 NPOの発展と新しい公共圏――その両義的展開をめぐって
第9章 非営利法の現状と課題
    ――非営利法の体系化に向けた一つの素描
第10章 法学におけるNPO研究の展開
第10章 [補論] 公益不認定処分と公益認定等委員会の法意識
     ――日本尊厳死協会公益不認定事件をめぐって
第11章 〈アソシエーション法〉という視角
 
               
第III部 現代社会の法化と市民社会
               
 
第12章 現代社会の法化――法化論の展開と課題
第13章 市民社会を基盤とする法の生成・変動
     ――広中俊雄の法社会学研究
第14章 シンポジウム「市民社会と法社会学」によせて
 
あとがき──本書のまとめをかねて
 

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